こんにちは。
ハーブ動物病院です。
今回は小型犬の膝蓋骨脱臼について、紹介します。
手術中の写真を掲載しております。苦手な方はご注意ください。
膝蓋骨脱臼とは?
関節を構成する骨同士の関節面が、正しい位置からズレてしまう状態を”脱臼”と言います。
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿、膝蓋骨が膝関節内で正しい良い位置からズレてしまう状態です。
通常であれば、膝蓋骨は、大腿骨遠位の滑車溝という溝にはまっており、屈伸運動を潤滑にサポートしています。
膝蓋骨が内側に外れる”内方脱臼”、外側に外れる”外方脱臼”があり、内方脱臼のが多いです。
うまれつきの”先天性”と、高いところから落ちたなどの”外傷性”にわかれます。
発症が”両側性”である場合も決して少なくありません。
また、オスよりメスが罹患する場合が多く、これは女性に罹患率の多い人でも同じらしいです。
脱臼の評価は、触診によるグレード分類が用いられます。
グレードⅠ 膝蓋骨は手で脱臼できますが、手を放すと元に戻ります。
グレードⅡ 膝蓋骨は膝を曲げると脱臼し、膝を伸ばしたり、手で元に戻ります。
グレードⅢ 膝蓋骨は絶えず脱臼し、手で元に戻りますが、放すと再び脱臼します。
グレードⅣ 膝蓋骨は絶えず脱臼しており、手で戻すことはできません。
生涯を通して無症状の場合もあれば、歳をとるにつれ、症状が出たり、悪化したり、合併症を伴ったりする場合もあります。
治療は、手術と内科治療があります。
高齢の場合は、筋肉の萎縮や健康状態によって、内科療法が選択される場合がありますが、疼痛緩和効果はさほど高くありません。
上記の場合を除いて、後肢を挙上する、跛行がある等の痛みの徴候が見られる場合は、若くて健康なうちに整復手術を行うことが推奨されています。
ここで、小型犬の膝蓋骨脱臼(内方脱臼、グレード3)の症例について、紹介します。
症例:小型犬、mix、11ヵ月齢、3.94kg、未去勢オス
主訴:右後肢を挙げて歩く
触診:膝蓋骨脱臼、膝蓋骨は常に内方に脱臼しているが、手で元に戻すことが可能、ドロワーサイン陰性
診断:膝蓋骨脱臼内方脱臼、グレード3、前十字靭帯断裂を疑う所見は認められず
治療:外科的整復、滑車溝造溝、同時に去勢手術
膝関節の関節包を切開して大腿骨遠位の滑車溝にアプローチします。
この症例はまだ1歳未満と若齢でしたが、常に内方に脱臼していたこともあり、膝関節の内側面の骨膜が強く損傷していました。
続いて、滑車溝にアプローチします。滑車溝の骨膜剥離を行います。
滑車溝を造溝後、剥離した骨膜を元に戻すことで、滑車溝保護による疼痛緩和を狙います。これを行うことで術後早期に回復できる場合があります。
膝蓋骨が滑車溝にはまるよう、かつ屈伸時に滑らかに滑車として機能できるよう丁寧に造溝します。
膝蓋骨が滑車溝に整復され、かつ屈伸時にも再脱臼を起こさないことを確認しました。
その後、膝蓋骨の両端を切開し、両端同士を縫合して閉創しました。こうすることで可動時に支障がない範囲で膝蓋骨が滑車溝に固定されるので、再脱臼する可能性をさらに抑えることができます。
通常は歩行可能となるまで1か月ほど掛かることをお話ししておりますが、この症例はグレード3だったにも関わらず、術後2週間で早くも走り回れつつあります。
今後は歩行時の痛みからも解放され、体重をコントロールしながら、元気に生活できると思われます。
膝蓋骨脱臼でもグレード4となれば、当院では対応が難しく、大学施設などをご紹介させて頂きますが、そうでない場合は、可能な限り、サポートしたいと思います。
お散歩など足を挙げて歩くなどある場合は、痛みの症状かもしれませんので、合併症が出る前にお気軽にご相談頂ければと思います。
以上です。