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執筆者の写真ハーブ動物病院スタッフ

猫の糖尿病、膵炎、肝リピドーシス

こんにちは。

ハーブ動物病院の竹田です。


開院して間もないですが、重病の猫が来院されました。

結果から言うと、その猫は、急性膵炎、糖尿病、肝リピドーシスを併発し、無事診断から治療まで迅速に対応できました。

現在は退院後、一般状態もよく通院治療を頑張っています。


今回は、猫の急性膵炎に加え、糖尿病、肝リピドーシスについて紹介します。

急性膵炎とは?

膵臓には、消化酵素を含む膵液を十二指腸へ分泌し、食べ物の消化を助ける働きと、インスリンなどのホルモンを血管へ分泌し、血糖値を一定濃度にコントロールする働きがあります。

急性膵炎とは、膵臓の急性炎症で、他の臓器にまで影響を及ぼします。

急性膵炎の最も多い症状は、腹痛、嘔吐、発熱などの症状や、状態が悪化すると、意識障害やショック状態など重症化することもあります 。


健康そうな猫でも 45%は、膵炎を発症しているという報告があり、膵炎は、しばしば炎症性腸疾患・胆管肝炎(あわせて”猫の三臓器炎”と言われています。)、糖尿病、肝リピドーシスといった様々な疾患と併発します。


治療は、絶飲食による膵臓の安静と、十分な量の輸液療法を行います。腹痛に関しては、鎮痛剤を適宜使用し、制吐剤によって吐き気を抑えます。 その後、状態によって、低脂肪食による食事療法を行います。


糖尿病とは?

インスリンが十分に働かないために、血液中のブドウ糖(血糖)が異常に増えてしまう病気です。インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きがあります。

糖尿病は主に下記に分類されます。

・ 1型

 膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る


・2型

 インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある


・他の疾患に伴うもの

 膵外分泌疾患

 内分泌疾患

 肝疾患

 薬剤や化学物質によるものなど


治療は、インスリン療法が主体になり、症例に合わせて輸液療法や内服、食事療法、生活環境の見直しを行います。

治療が遅れると糖尿病性ケトアシドーシスとなり、危篤状態になりかねません。


糖尿病性ケトアシドーシスとは?

インスリンが欠乏すると、生体内に酸性のケトン体が蓄積されます。

治療が遅れると、次第に生体内が酸性に傾くアシドーシスになります。

高血糖の症状に加え、脱水やアシドーシスによる低血圧および頻脈、嘔吐、意識障害などを呈する極めて危険な状態となります。


肝リピドーシスとは?

肝臓は、栄養素の代謝や合成、血液によって運ばれてくる有害物質の無毒化、ビタミンやミネラルの貯蔵など様々な機能をもつ重要な臓器です。


肝リピドーシスとは、特に猫でよくみられる病気で、何らかの原因で食べない状態が数日間以上続くと、エネルギー源として体内では処理しきれないほどに脂肪が急速に分解され、肝臓に蓄積することによって起こる肝障害です。


治療は、原因となっている疾患があれば除去と、強制給餌によって栄養補給を行いながら、肝庇護剤を用い、輸液療法を行います。



ここで、今回の症例についてご説明します。

プロフィール:猫、mix、16歳、去勢オス、4.6kg

主訴:頻回嘔吐、食欲廃絶、多飲、ぐったりしている


身体検査:頻脈、股圧正常からやや弱い、重度脱水、意識障害


血液検査の結果:膵炎、高血糖、肝障害、高脂血症、脱水、軽度腎不全

血糖値(Glu):444mg/dl ↑

尿素窒素(BUN): 40.8mg/dl ↑

クレアチニン(Cre):1.69mg/dl (脱水補正後、1.86mg/dl)

ALT(GPT):830U/L ↑

ALP:134U/L

中性脂肪(TG):500mg/dl ↑

総コレステロール(TChol):338mg/dl ↑

ナトリウム(Na):157mmol/L

カリウム(K) :4.2mmol/L

クロール(Cl):114mmol/L

fPL(猫膵特異的リパーゼ):陽性


エコー検査:十二指腸コルゲートサイン、蠕動運動能低下、膵臓領域やや高エコーに腫大


診断:急性膵炎、糖尿病、肝リピドーシス、軽度腎不全(IRISステージ2)の疑い


治療

入院下で輸液療法(糖尿病治療中は、低カリウムを呈するため、カリウム補正)、インスリン療法、少量から強制給餌(高タンパク、低炭水化物食)、ビタミン剤(糖尿病ではビタミンBが欠乏しやすいため)、制吐剤、鎮痛薬、肝庇護剤など


重度の急性膵炎で、特に全身性合併症 がある場合は予後不良と言われています。糖尿病などの併発疾患のある猫では、膵炎の管理は困難なことがあり、急性膵炎と肝リピドーシスを併発している猫では、肝リピドーシス単独の猫よりも予後が悪いことが分かっています。


しかし、今回の症例では、高齢ながらも猫自身治癒能力が十分にあり、適切に診断・治療できたことから無事に退院することができました。


ちなみに、当院初めての入院症例でした。

今後は、膵炎の再発に気を付けながら、糖尿病を管理していくことになります。


以上、比較的重い症例のご紹介でした。

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